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山形家庭裁判所米沢支部 平成4年(少)230号 決定 1992年12月17日

少年 K・M(昭48.4.30生)

主文

1  少年を中等少年院に送致する。

2  押収してあるカッターナイフ1本(平成4年押第13号符号1)を没取する。

理由

少年は、

第1  徒歩で帰宅途中のA子(当時16歳)に対し、猥褻の行為をする目的で他所に誘拐しようと企て、平成4年10月31日午後2時5分ころ、南陽市○○××番地の×所在のB方居宅の商方約50メートルの路上において、同女に対し、「すみません、○○公園の場所を教えて欲しいんだけど。」と言って呼び止めたうえ、「ここら辺は初めてで、全く判らないので、乗って教えてくれませんか。乗って教えてくれたら、ここまで送ってくるから。」などと申し向け、道案内のために自己の運転する普通乗用自動車に同乗を求めるように装い、同女を、その旨誤信させて、同車の助手席に乗車させ、その後、その場から約1.1キロメートル離れた同所××番地の××所在の南陽市○○公園の駐車場まで同女を連行し、もって猥褻の目的で誘拐し、

第2  上記A子に猥褻行為を加えるためにその抵抗を困難にするべく、上記同日午後2時25分ころ、上記駐車場に停車中の上記自動車内において、同女に対し、やにわに、その肩を掴み、所携のカッターナイフ(平成4年押第13号符号1)を突きつけたうえ、「動くなよ。」と申し向け、もって、凶器を示し、同女の身体に危害を加えるような態度を示して、脅迫したものである。

(適用法令)

前記第1の事実について 刑法225条

前記第2の事実について 暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法222条1項)

(処遇の理由)

少年の行状、経歴、家庭環境及び資質等に関する詳細は、当庁家庭裁判所調査官作成の少年調査票及び山形少年鑑別所長作成の鑑別結果通知書を初めとする少年調査記録に記載されたとおりであるところ、特に、少年が、自己の性欲を満たすため、高等学校の女生徒を言葉巧みに自動車内に誘い込み、人目に行かない場所まで誘拐したうえ、カッターナイフを示して脅迫し、猥褻行為をする目的を達しようとするという悪質かつ重大な前記各非行を犯したばかりか、平成4年7月初旬以降、5回前後にわたり、小学校又は中学校に在籍中の女児又は女生徒を対象に同様の行為を試み、その内の1回においては、小学校三年生前後の女児に対し、猥褻目的で誘拐したうえ、凶器を示して脅迫し、抵抗を抑圧した状態で、泣いて許しを請う同児に強いて猥褻行為を加え、自己の性欲を満たすという重大かつ卑劣な行為に及ぶなどの余罪を重ねた行状を軽視することは到底できない。

なお、付言するに、一般に、交友関係及び日常の生活態度等の行状並びに経歴、更には、家庭環境及び資質までもが、要保護性の程度を判断するに際して考慮され得る少年事件においては、送致されない余罪を少年の行状の一端として評価及び検討することが許されるものというべきである。

上記非行の嫌疑による逮補及び勾留に引き続く少年鑑別所への収容後、少年なりに反省の弁を述べ、実父においても在宅処遇を希望するけれども、少年が、上級生及び級友による苛めを端緒とした点で同情の余地はあるものの、中学校在籍中の相当期間を不登校の状態で過ごし、高等学校入学後、不登校は改善されたが、現在在籍中の専門学校への入校後も含め、家族以外の他者との接触を避け、一人遊び的な生活を送る一方で、成人向けのビデオテープ及び雑誌を収集する閉鎖的かつ非社会的な生活態度を継続する中で育まれた自己中心性及び共感性の欠如という少年の問題性は深刻といわざるを得ず、この点の改善がなければ、少年の社会人としての自立に支障を生ずることは固より、中・長期的に見て、同非行と同種の再非行に及ぶおそれも払拭することはできない。

したがって、悪質かつ重大な上記非行に対する責任の真摯な自覚を求めるとともに、自己中心性及び共感性の欠如、更には、その背景にある非社会的な性格及び生活態度という同非行の原因と目される問題性の根本的な改善を図るため、少年を少年院に送致して、特殊教育課程における矯正教育(少年の年齢及び問題性の深刻さに照らし、中等少年院での長期処遇を選択せざるを得ない。)を施すことは、必要かつやむを得ないものというべきである。

(結論)

以上のとおりであるので、少年法24条1項3号及び少年審判規則37条1項並びに少年院法2条3項を適用して、少年を中等少年院に送致し、押収してある前記カッターナイフは、前記第2の犯罪行為を組成し、かつ、それに供した物で、少年以外の者に属さないから、少年法24条の2第1項1号及び2号並びに2項本文を適用して、これを没取することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋徹)

〔参考〕 抗告審(仙台高 平4(く)33号 平4.12.25決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告での少年の言い分は、少年が提出した抗告申立書に記載されているとおりであって、必ずしも明らかではないが、要するに、少年は、原決定が認定した事件のほかに小学生の女の子に対してわいせつな行為をしたことがないのに、警察官の追求に負けてしまって、小学生の女の子に対してわいせつな行為をしたなどと作り話を言ってしまい、本当のことを言う機会もなかったため、中等少年院送致の決定を受けることになったのであって、その処分は重過ぎるので、これを取り消してほしい、というもののようである。

そこで、記録を調べて検討してみると、原決定は、「非行事実」として、少年が平成4年10月31日午後2時5分ころ、原判示の路上で帰宅途中の高校生の被害者にわいせつな行為をする目的で誘拐しようとして、その高校生を普通乗用自動車に乗せて約1.1キロメートル離れた場所まで連行して誘拐した事実と、その直後に駐車場に停止中の自動車内でその高校生にカッターナイフを突きつけるなどして脅迫した事実を認定したうえ、右の非行事実が悪質かっ重大であることや、少年の非社会的な性格とか生活態度などを考えて、少年を中等少年院に送致したことが明らかであって、少年のいうような小学生の女の子に対するわいせつな行為を少年の非行事実として認定しているのではないから、少年の言い分はその前提を欠いていることになる。

もっとも、原決定は、「処遇の理由」の項で、少年のいう小学生の女の子に対してわいせつ行為をするなどの余罪を重ねたことを認定しているが、この事実は少年の日常の生活態度等の行状の一環として認定し、これを要保護性の程度の判断資料として考慮しているのであって、仮に少年がいうように、右のわいせつ行為がないとしても、少年は、平成4年7月初旬以降小学生や中学生の女の子に同じような行為を何回も試みていたというのであるから、少年の日常の生活態度の評価に大きく影響するものではなく、このような非行の内容や少年の性格、生活態度等を総合して考えてみると、原決定もいうように、非行の原因と思われる少年の性格や生活態度等を根本的に改善するためには、少年に対して特殊教育課程での矯正教育が必要であると思われる。

そのようなわけで、少年を中等少年院に送致した原決定はやむを得ないものであって、その処分が著しく重いということはなく、したがって、少年の申し立てた抗告は理由がないから棄却することとして、少年法33条1項後段、少年審判規則50条によって、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 渡邊達夫 裁判官 泉山禎治 堀田良一)

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